退院時に介護者を支援する:当事者協働から得られた実践的教訓

キャスリン・マキューアン(イギリス・ノーサンブリア大学)

サラは父親の荷物をまとめながら、安堵と不安が入り混じる気持ちを抱えていました。脳卒中で5日間入院した父親が退院することになったのです。看護師から薬の変更や通院予定について簡単な説明はありましたが、自宅で介護を担う予定のサラは、退院後の生活に関する話し合いには加わっていませんでした。彼女は病院で渡された書類を手に帰宅しましたが、その内容を理解しきれず、どのような症状に注意すべきか、問題が起きた際に誰に連絡すべきかも分からないままでした。そして、父親は48時間以内に再入院しました。

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格差を埋める:日常診療における公平性の実践

アマンダ・オコーナー、クレア・ブルーイット、ヘレン・スクーテリス

(モナッシュ大学、メルボルン、オーストラリア)

健康の公平性とは、社会経済的地位、民族、性別、その他の社会的条件に関わらず、すべての人が良好な健康を享受するための公正かつ平等な機会を持つことを意味します。しかし、現在、世界中で健康格差は拡大する傾向にあります。各国の平均寿命は、保健システムの構造的な脆弱性、制度的な人種差別・偏見、不平等な社会的・経済的・環境的条件によって引き起こされ、その差は30年にも及ぶこともあります。また、国内においても社会集団間での不平等が拡大しています。

これらの根本的な原因は、私たちの日常業務から無縁のところにあるように感じられることがあります。医療従事者は多くの場合、時間的プレッシャー、限られた資源、厳格なプロトコルのもとで働いており、公平性は主に政策やシステムレベルの問題であると思われがちです。しかし、健康の公平性は日常的な医療の場面においても生み出されています。例えば、医療サービスがどのような仕組みで提供されているか、どのようにコミュニケーションが行われるか、意思決定はどのようになされるか、そして利用可能なケアから誰が実際に恩恵を受けられるのか、といった点においてです。

すべての診察、ケアのプロセス、そして医療サービス改善の取り組みは、それぞれが健康の公平性に影響を与える小さな介入となります。予約システム、紹介の流れ、患者向け教育資料、デジタルツール、フォローアップ手順などに関する日々の意思決定は、健康格差を縮小させることもあれば、逆に拡大させることもあります。公平性の視点が十分に考慮されていない場合、標準的な仕組みや手続きは、恵まれた立場にある人々にとって利用しやすいものになりがちです。一方、初期段階から公平性を意識して設計された医療は、より多様な患者にとってアクセスしやすく、使いやすく、そして効果的なものになります。

医療における公平性を重視したアプローチは、公平性を意識した振り返り(省察)と計画から始まります。医療チームは、自分たちが考える公平性とは何かを明確にし、それぞれの医療サービスにおいて公平なアクセスや公平な成果とは何を意味するのかを話し合う必要があります。そのためには、どのような患者集団が受診しにくいのか、治療を継続しにくいのか、あるいは医療から十分な利益を得にくいのかを特定し、言語、ヘルスリテラシー、交通手段、デジタル機器へのアクセス、費用、スティグマ(偏見)、過去の否定的な医療体験など、現実的な障壁を検討することが求められます。また、公平性を考慮した計画では、単にリスクや欠点だけに注目するのではなく、患者や地域社会が持つ強みや資源にも目を向けることが重要です。例えば、地方や農村部に住む肥満のある子どもたちの医療へのアクセスを改善するためには、遠隔医療、プライマリケアにおける看護師の役割拡大、地域保健ワーカーを活用した支援モデルなどが有効と考えられます。

もう一つの核となる原則は、当事者としての経験を重視することです。患者は自らの病気や生活を実際に生きている存在であり、その意味で自分自身の置かれた状況を理解する専門家でもあります。患者が医療を受ける中で感じる困難や気づきは、臨床指標だけでは見えてこない障壁や改善の余地を明らかにします。医療従事者は、患者の視点を継続的かつ体系的に聞き取る仕組みを整えることで、健康の公平性を高めることができます。具体的には、患者パートナー(自身や家族の経験をもとに、サービス設計・評価・運営に正式に参画する患者やケアラー)、助言グループ、フィードバックシステム、共同設計(co-design)の活動などを活用し、こうした意見が実際のサービス提供やコミュニケーション方法に意味のある形で反映されるようにすることが重要です。例えば、精神疾患を経験した若者たちと協働することで、若年者メンタルヘルス支援分野における地域基盤型の心理社会的支援の協働的なサービス設計・実施・評価を進めるためのロードマップが作成されています。

リフレクティブ・プラクティス(省察的実践)もまた重要です。医療における人間関係には、専門職としての権威、制度上の役割、知識量の差異に基づく力関係の非対称性が存在しています。臨床家や医療チームは、自らの思い込みやステレオタイプ、時間的制約が、意思決定や患者との関わり方にどのような影響を与えているのかを、定期的に振り返る必要があります。定期的な省察の機会、チーム内の対話、多様な背景を持つ患者や同僚からのフィードバックは、自分では気づきにくい盲点を明らかにし、偏見が医療上の意思決定に影響を与えるリスクを減らすことにつながります。こうした省察は一時的な取り組みではなく、継続的な質改善の実践として根付かせることが重要です。私たちが幼児支援機関と協働して行っている取り組みでも重要視されています。トラウマの影響を受けた子どもたちを効果的に支援するために、私たちは分野や組織を越えて連携し、こうした子どもたちの健康とウェルビーイングの公平性を支えるためには、どのような実践や政策が必要なのかについて、深く継続的な省察を行っています。

公平性を重視したケアは、適切な概念的視点を用いることにより強化されます。健康の社会的決定要因、交差性(複数の社会的立場や属性の重なり)、構造的差別、文化的に根ざしたケアといった枠組みは、公平性という抽象的な価値を、具体的な臨床的・組織的意思決定へと転換するのに役立ちます。これらの視点は、治療不遵守、受診忘れ、コミュニケーション上の困難、リスク行動などを専門家がどの解釈するかに影響を与え、「協力的でない患者」という見方から、患者の生活実態と制度、サービス、社会的文脈のミスマッチの可能性へと目を向けさせます。

健康の不公平は社会制度によって生み出されますが、それは同時に医療現場における日々のさまざまな行動を通して強化されたり軽減されたりもします。したがって、公平性を重視することは、良質な臨床ケアとは別のものではなく、その重要な一部なのです。

実践に役立つヒント

  • 常に目を開け、広い視野を持つ。 健康の不公平や、それを生み出す構造的な要因について理解を深めましょう。また、自らが「支援する側」「判断する側」という専門職としての立場にあることを意識し、自身の思い込みや無意識の偏見について振り返ることも重要です。それらが患者とのコミュニケーションや臨床判断、患者への期待にどのような影響を及ぼしうるのかを考えてみましょう。さらに、短い時間でもよいので、省察の機会を日常診療やチームミーティングの中に取り入れてみましょう。
  • 多様な患者の声を積極的に集め、丁寧に耳を傾ける。 一般的な満足度調査にとどまらず、さまざまな患者グループから意見を聞くための、簡便で継続的な機会を作りましょう。特に、受診頻度が低い患者、治療や支援を中断してしまう患者と関わり、その人たちが包括的なケアを受けるうえで障壁となっている要因を理解することが重要です。患者代表や地域コミュニティ団体とも協働し、彼らの意見が大切に扱われ、実際のサービス改善につながっていることを明確に示しましょう。
  • 使用しているツールや手順を批判的に吟味する。 診療の流れ、教育資料、デジタルポータル、行動変容を促すツールなどは、読み書き能力が高く、十分な資源を持つ患者を前提に設計されていることが少なくありません。資料や手続きがわかりやすいか、文化的に適切で、利用しやすいかをチェックしてください。必要に応じて、言葉づかいや提供方法を調整しましょう。また、初期段階から、公平性に関する枠組みや理論に親しみ、それらを取り入れて検討することも重要です。
  • 不公平を生み出している慣習や制度に対して疑問を持つ。予約をキャンセルしやすい人、紹介につながりにくい人、十分な利益を得られていない人に共通したパターンに注意を向けましょう。そして、なぜそのような不公平な状況が生じているのかについて、チーム内で共有し、患者自身にも理由を尋ねてみましょう。患者の訴えるニーズを尊重し、その代弁者として支援することが求められます。こうした支援には、柔軟な予約体制、通訳へのアクセス支援、アウトリーチ型の支援、そして患者支援を可能にする資源配分などが含まれます。
  • 多様な形のエビデンスを重視する。 臨床ガイドラインや量的指標だけでなく、患者の語り、現場スタッフの経験に基づく洞察、地域コミュニティの知識もあわせて活用することが重要です。こうした異なるエビデンスを組み合わせることで、実際の医療現場において、「誰に」「どのような支援が」有効なのかを、より正確に理解することができます。

Translated by: Naomi Yoshitake

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行動変容の枠組みを見直す

テレサ・マルトー ケンブリッジ大学(イギリス)

私たちの多くは、より健康的な食事をとること、飲酒量を減らすこと、禁煙すること、車を使わず歩くことがなかなかできずに苦労しています。こうした行動は、自分の健康のみならず、地球環境にも有益だと分かっていても、実行するのは容易ではありません。これは、私たちが支援しようとしている人々だけでなく、心理学者や行動科学者自身にも当てはまります。

このような難しさは、意志の弱さによるものではありません。問題は、日常の環境が私たちの行動にどれほど強い影響を及ぼしているかを過小評価し、その一方で私たちの価値観や意志の力を過大評価してしまうことにあります。

なぜ知っているだけでは十分ではないのか

この問題を理解するために、個人の健康リスク予測について考えてみましょう。ある人に対して、2型糖尿病や心疾患を発症する正確なリスクを伝えれば、行動変容を促せるでしょうか。エビデンスはノーです。5つの系統的レビュー(数十のランダム化比較試験を含む)によれば、遺伝的リスクスコアなどの疾病リスク情報を人々に提示しても、行動にはほとんどといっていいほど影響がありません。身体活動、喫煙、飲酒、不健康な食習慣といった行動に変化は認められていません。

同様に、気候科学者は気候変動について詳細な知識を持っているにもかかわらず、他の研究者と同じくらい頻繁に飛行機を利用しています。これは、知識だけで持続的な行動変容が生じにくいことを示しています。

問題は環境にある

行動科学における二重プロセス・モデルは、こうした現象を理解する手がかりを与えてくれます。私たちの行動は、相互に作用する2つのシステムによって調整されています。ひとつは、ゆっくりで熟慮的、かつ目標志向的なシステムで、読書をしたり、新しいスキルを学んだり、誘惑に抵抗したりするときに用いられます。もうひとつは、素早く自動的で、手がかりに反応するシステムで、例えばケーキを見るとつい手がのびてしまうような行動を引き起こします。熟慮的な処理には限界があり、それがほかのタスクによって占有されると、自動的なシステムが環境からの手がかりに直接反応しやすくなります。そのため、行動を変えるには、頭の中を変えようとするよりも、環境にある手がかりを変えるほうが、より効果的と言えます。

特に重要な環境の手がかりは、3つのAと言われ、手頃さ(Affordability)、入手しやすさ(Availability)、魅力(Appeal)です。

手頃さ(Affordability):価格は行動を変える

たばこの価格を引き上げることは、喫煙を減らすための最も効果的な政策の一つです。価格が10%上がると、たばこの使用はおよそ4%減少します。砂糖入り飲料への課税は、その消費を減少させることが示されています。一方で、果物や野菜については、価格を下げる補助金により、その消費が増加します。

入手しやすさ(Availability):手に取りやすいものが選ばれる

19の社員食堂で2万人の従業員を対象に行った我々の研究では、低カロリーのメニューを増やし、高カロリーのメニューの提供量を減らしました。その結果、より健康的なメニューが選択され、購入カロリーは11.5%減少しました。

魅力(Appeal):広告は効く

たばこアルコール健康に好ましくない食品の広告やスポンサー活動を制限すると、それらの製品の魅力や購入は減少することが示されています。同様の効果は、化石燃料に関連する製品やサービスにも期待されています。さらに、製品の提示方法に介入する手法として、明確な警告表示の付与や、ブランド要素の削減(いわゆるプレーン・パッケージ化)があります。これらは製品の魅力を低下させる有効な手段です。例えば、カナダのユーコン準州で、飲酒ががんの原因となることを明示した警告ラベルをアルコール飲料に表示したところ、アルコール販売量はおよそ6%減少しました。たばこのプレーン・パッケージ化は、警告表示の視認性を高めることで、製品の魅力をさらに低減させることが報告されています。

なぜ規制が重要なのか

私たちの日常に存在する手がかりを変えることで行動変容を促す介入の多くは、商業的利益と対立することが多いため、制度的な規制を必要とします。たばこ、アルコール、健康に好ましくない食品、そして化石燃料という4つの産業は、世界の死亡の少なくとも4人に1人に関連する製品を扱っており、同時に温室効果ガス排出の大部分を占めています。

それにもかかわらず、情報提供キャンペーンや産業による自主規制が、依然として主な対策として行われています。これらの産業は、ロビー活動を行い、規制の有効性を疑問視する研究に資金を提供し、さらに政府の介入は自由の制限であるという主張を展開することで、自主規制が優先され続ける状況を積極的に支えています。

何を変える必要があるのか

私たちは、エビデンスと政策決定を企業の干渉から守る必要があります。たばこ対策はその有効なモデルを示しています。たばこ規制に関する国際条約の第5.3条を採用した国々では、政策決定が産業の干渉から保護され、よりエビデンスに基づいた政策が実施された結果、喫煙率も低い水準にあります。このような保護は、健康を損ない、地球環境に負荷を与える製品を扱うすべての企業に広げていく必要があります。さらに、市民会議(Citizen Assemblies)や市民参加型の討議プロセスも、市民と政府が協働しながら意思決定に関与する仕組みとして、政策決定における市民の関与とエビデンスの反映を高める可能性があります。

実践に役立つヒント

医療従事者への提案

  1. 教育ではなく環境から始める。クライアントや患者と関わる際には、望ましくない行動を引き起こしている環境要因を特定します。やる気や知識のみに焦点を当てるのではなく、身の回りの環境を再設計するよう支援します。たとえば、果物を見える場所に置き、加工食品やお菓子は視界から外す、自転車は地下ではなく廊下に置く、皿やグラスを小さくする、といった工夫が有効です。
  2. 職場環境の改善を提案する。職場に働きかけ、食堂における健康的な選択肢の入手しやすさを高めるとともに、価格面での負担を軽減する取り組みを推進します。たとえば、植物由来の食事を標準メニューとして提供し、必要に応じてほかのメニューを選べるようにするなど、小さな環境調整でも行動は大きく変わり得ます。

公衆衛生分野の実践者への提案

  1. 見えないものを見えるようにする。自らの発信基盤を活用して、環境がどのように行動を形づくるのかを伝えます。行動変容は個人の意志や知識の問題とする支配的な見方に疑問を投げかけます。エビデンスが示しているのは、考え方だけでなく、環境を変えることの重要性です。
  2. 政策担当者と関わる。地域および国レベルで、エビデンスと政策の間にあるギャップを特定します。エビデンスに裏づけられた具体的な提言を添えて、政策担当者に働きかけます。多くの政策担当者は、特に実践的な解決策が示される場合、専門家からの意見に耳を傾ける傾向があります。たとえば、我々が英国の保健大臣に送った書簡は、健康寿命の延伸に向けた行動変容に関するエビデンスの統合につながりました。
  3. 規制に向けた連携を築く。たばこ、アルコール、食品、移動手段などに関するエビデンスに基づく政策を推進する団体と連携します。産業の影響力に対抗するためには、組織的な働きかけが不可欠です。たばこ対策が専門家と政策担当者の協働によって進展してきたように、より強い規制を支えるエビデンスをわかりやすく整理し提供する機会を見出していくことが求められます。

Translated by: Naomi Yoshitake

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座る時間を減らそう:小さな変化が大きな違いを生む

ゾフィア・シュチュカ SWPS大学(ポーランド)/ディーキン大学(オーストラリア)

座位行動:単なる「運動していない」状態ではない

身体活動を増やすことの健康効果は広く知られています。しかし、私たちは「座位行動」にも同じくらい注意を向けているでしょうか?

座位行動とは、日中、座ったり横になったりするなど、身体がほとんどエネルギーを消費しない状態のことを指します。重要なのは、座位行動は身体活動量が少ないことと同じではない、という点です。たとえば、毎朝30分ジョギングをしていても、その後の時間の大半を職場や自宅で長時間座って過ごしている場合があります。これは、定期的な運動をしているにもかかわらず長時間座り続ける生活を送っている状態であり、「アクティブなカウチポテト(活動的な座りがち生活者)」現象と呼ばれることがあります。世界保健機関(WHO)の最新ガイドラインでは座位行動を減らすことと身体活動を増やすことはどちらも重要で、両方合わせて取り組むべきものとされています。

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ワクチン接種に消極的な人に対応する医療従事者のために

ドーン・ホルフォード(英国・ブリストル大学)、リンダ・カールソン(フィンランド・トゥルク大学)、フレデリケ・タウバート(ドイツ・エアフルト大学)、エマ・C・アンダーソン(英国・ブリストル大学)

ワクチンに関する誤解を正す

ワクチン接種は、公衆衛生の歴史上最も成功した介入の1つであり、世界では1分間に推定6人の命がワクチンによって救われています。しかしその一方で、ワクチンに対する抵抗は根強く、ワクチンへの不安をあおる偽情報が後を絶たないため、ワクチン接種に従事する医療従事者にとって大きな頭痛の種となっています。医療従事者は、ワクチンに関する偽情報があふれる中で,どのように対処すればよいのでしょうか?患者がこうした誤情報を理由に、自分自身や子どもへのワクチン接種をためらうとき、医療従事者はどのような言葉をかけるべきなのでしょうか?

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エイジズムに挑む:高齢者の活動性と健康を支える実践

アイナ・シャラバエフ(グルノーブル・アルプ大学、フランス)

前回の記事でも述べたように、65歳以上の人にとって定期的な運動が健康に大きな効果をもたらすことは広く知られています。世界保健機関(WHO)は、どの種類の活動をどの程度行うと健康効果があるかについて明確なガイドラインを提示しています。しかしながら、現実には高齢者の活動量は世界的に見て全年齢層の中で最も低い水準にとどまっています。

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MyLifeTool:長期的な健康問題の自己管理に向けた、患者中心で全人的なアプローチ

ステファニー・キリンチ博士、テスサイド大学(英)

ジョー・コール(ティーズバレー・ダラム・ノース・ヨークシャー神経学連盟、英)

長期的な健康問題は、世界的に高い有病率疾病負担を伴い、とりわけ障害調整生存年に大きな影響を及ぼしていることから、各国の医療制度にとって重大な課題となっています。これらの疾患は健康関連の生活の質を著しく損ない、一般集団と比較して不安やうつ病の罹患率が高いことも明らかになっています。

MyLifeTool は、糖尿病、多発性硬化症、慢性疼痛、喘息、不安障害、神経発達症、脳損傷後遺症、線維筋痛症など、長期的な疾患を抱える人のための自己管理ツールです。このツールは、長期的な疾患を持つ当事者とNeuro Key のメンバー、そしてテスサイド大学の心理学者らとの共同開発によって生まれました。開発の基盤には、患者中心の非指示的な視点で自己管理をとらえる独自の自己管理フレームワークがあります。プロジェクトの中心には常に慢性疾患を抱える当事者の存在があり、MyLifeTool がどのような形になるかの意思決定や名称選定に至るまで、主導的な役割を担ってきました。

自己管理へのアプローチ

長期的な疾患に対する自己管理の取り組みは、しばしば医療的な成果や管理手法に重きを置きすぎて、行動変容ばかりに注目するあまり、社会的・対人関係的な文脈が軽視されがちです。これに対し、長期的な疾患の自己管理は、生活状況や症状に応じて柔軟に展開される、生涯にわたるプロセスであると捉えることができます。そのため、従来の指示的な介入から、個人が自己管理に必要な資源を発見し、育てていくことを支援するアプローチへの転換が提案されています。このような考えに基づき、私たちは自己管理を「人生の意味や目的を見出し、それを維持していくための旅路」と捉えています。それは、患者本人が自らの視点で取り組み、自分の生活や目標、ニーズ、疾患の経過に応じて調整しながら進めていく継続的なプロセスです。自己管理とは「診断名」に従うことではなく、「その人自身」を中心に据える営みであるべきなのです。こうした理由から、MyLifeTool では、どのような自己管理戦略が自分にとって有効か、または有効でないのかを患者自身が振り返るプロセスが重視されています。

MyLifeTool の構成

MyLifeTool は、5つの小冊子で構成されており、それぞれにポジティブ心理学に基づくさまざまなワークが盛り込まれています。これらのワークを通して、人々が自身の強みを見つめ直し、活用することを促しています。研究によれば、目的意識をもって生きることは、長期的な疾患を抱える人にとって重要であり個人の成長や健康状態の改善とも関連していることが示されています。

Book 1: “Me and my condition(私と私の病)”は、「自分自身をより前向きに捉える」ことをテーマに、自分のアイデンティティに焦点を当てています。冊子では、「自分は病気によって定義される存在ではない」と認識し、自分に対して優しく接することの重要性が強調されています。あわせて、「自分とはどのような人間か」「自分にとって大切な価値観とは何か」「自分にどのような期待を持っているのか」といった問いを通じて、自己理解を深めるためのワークも盛り込まれています。

Book 2: “Embracing my body( 自分の身体を受け入れる)”では、自己管理プログラムでよく取り上げられる「計画的な行動」や「ペーシング(活動の配分)」といった戦略に焦点を当てています。ワークを通じて、自分の身体の声に耳を傾けることを学び、無理をしたときに現れるサインに気づきやすくなります。また、自分のエネルギーレベルを上手に調整し、日々の活動を無理なく続けるための工夫について考えることができます。

Book 3: “Taking charge(主体性を持つ)”は、自分の強みに目を向け、レジリエンス(回復力)を育て、調子の良い日をより有効に活かすことを目指しています。自分の疾患についてより深く理解し、それが日常生活の中でどのような意味を持つのかを見つめ直すことで、より前向きに自己管理に取り組めるようにします。また、目標設定や自分の強みを再確認するためのワークも用意されています。

Book 4: “Connecting with others(他者とのつながり)”では、支援を受けることの大切さと同時に、他者を支えることが、人生の意味や目的を高める効果があることに着目しています。ワークを通じて、家族や友人だけでなく、医療者やその他の専門職に対して、自分のニーズをどのように伝えるかを考える内容となっています。

Book 5: “What’s important to me(私にとって大切なこと)”は、自分にとって人生の目的となるものは何か、自分のための時間をどのように確保するかを考えます。目的意識の持ち方は人それぞれであり、忙しく過ごすこと、朝起きる理由があること、自分に挑戦することなど、さまざまな形があります。

Reflective Scrapbook (内省のためのスクラップブック)

MyLifeTool に用意されたReflective Scrapbookは、創造的な内省のためのスペースです。ここでは、ユーザーが自分の経験や目標、達成したことについて自由に考え、表現することができます。スクラップブックは自由で非指示的なため、自分に合ったさまざまな創作を行うことができますし、日記のように活用することも可能です。こうした創造的なアプローチは、人々が自らの経験を深く探求し、その意味についてより本質的な形で振り返ることを可能にします。

MyLifeTool は、イギリス国内のボランティア団体やメンタルヘルスの専門職によって利用されています。オンラインで無料提供されており、長期的な疾患を抱える人々が自分自身で使ったり、専門職が患者やクライアントと一緒に使うこともできます。

MyLifeTool の評価

MyLifeTool を12週間使用した人々は、自己管理の支援、個人の成長、そして長期的な疾患を受容する力の向上において、このツールが有益であると感じたことが報告されています。また、使用前後に実施されたウェルビーイングに関する測定では、自己効力感、エンパワーメント(自分の人生を主体的に生きる力)、ペーシング能力の改善が見られました。

実践に役立つヒント

診断名を見るのではなく、その人全体を見る:長期的な疾患は、その人の生活のあらゆる側面に影響を及ぼします。疾患がその人の人生にどのような影響を及ぼしているのかを一緒に考えてあげましょう。その際には、症状や生活環境の変化、ニーズや将来の目標なども考慮に入れる必要があります。

自己管理は継続的なプロセスである:短期間の講座に参加しただけでは、自分の健康状態を自己管理する方法を十分に身に着けることはできません。長期的な疾患とは一生付き合う可能性があり、症状やその影響は変化します。だからこそ、自己管理について継続的に振り返るよう促すことで、生活環境や健康状態の変化に長期的に対応する力を養うことができます。

意味と目的:長期的な疾患を抱える人が、自分の人生において何が意味や目的をもたらすのかを振り返り、探求できるよう支援します。

強みに焦点を当てる:MyLifeTool を使用した人々は、このツールが「できないこと」ではなく、「できること」に焦点を当てている点を評価しています。

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沈まないために:あらゆるレベルで見直す溺水予防

キラ・ハミルトン、グリフィス大学 応用心理学部(豪)
エイミー・ペデン、ニューサウスウェールズ大学 公衆衛生学部(豪)

溺水は予防可能であるにもかかわらず、いまだに世界中で主要な死因や重度の傷害の原因となっています。その深刻さは社会に十分に認識されているとは言えません。よくある誤解として、「溺水は必ずしも死に至るわけではない」というものがあります。しかしながら実際、溺水の定義は見直されており、溺水とは「結果」ではなく「過程」であることが明確にされています。つまり、溺水という過程の結果として、死亡(致死的溺水)に至ることもあれば、脳性まひやその他の低酸素による神経障害などの後遺症を伴う、あるいは伴わない形で生存する(非致死的溺水)こともあるのです。「ドライ・ドロウニング(乾性溺水)」「セカンダリー・ドロウニング(二次性溺水)」「ニア・ドロウニング(準溺水)」といった用語は、メディアで頻繁に使われていますが、これらはすでに時代遅れで医学的にも正確であるとはいえません。したがって、これらの用語の使用を見直す時に来ています。

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古い習慣はなかなか消えない: 望ましくない習慣をやめるには

アナベル・ストーン、フィリッパ・ラリー、サリー大学(英国)

 

新しい年の始まりには何かを変えたくなるものです。真夜中の鐘が鳴るのを聞きながら、新しい習慣を身につけよう、悪い習慣を捨てようと決意します。ランニングシューズのほこりを払い、買い物かごに新鮮な果物や野菜を詰め込み・・・「新しい年、新しい私」と思ったことのない人はいないでしょう。しかし1カ月も経つと、ランニングシューズは2回しか日の目を見ず、新鮮な果物は毛羽立ち始めています。なぜでしょう?どうやら悪い習慣が新年までついてきてしまったようです。

心理学者によると、習慣とはこれまである行動を頻繁にしていた状況(きっかけ)に遭遇したときに、自動的にその行動を実行するプロセスのことです。その「きっかけ」とは、ストレスを感じるとチョコレートを食べたくなるというような感情的なものであったり、パブで友人と一緒になるたびにビールを1パイント飲むというような社会的なものであったり、あのコーヒーショップに入るといつもラテを注文してしまうというような物理的なものであったりします。言うまでもないことですが、悪い習慣をなくそうと思っても、その習慣のきっかけに再び遭遇したときに自動的にその行動をしてしまうのを完全に防ぐのは難しいものです (more…)

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1回の診療を有意義に: 医療現場における運動の推進

アマンダ・デイリー ラフバラー大学(イギリス)

イギリスとアイルランドでは、Making Every Contact Count(1回の診療を有意義に)というイニシアチブの下、医療従事者と患者の間で毎日何千回も行われる医療相談を健康的な行動変容を促す場として活用する試みを実施しています。 具体的には、Making Every Contact Countでは、医療従事者が日常診療の機会を使って患者に簡単な健康行動変容の介入を容易に実施できるような仕掛けを作っています。Making Every Contact Countのようなアプローチの成功のカギを握るのは、医療従事者が日々の診療の中でこうした話題を積極的に取り上げる意欲があるかどうかです。Making Every Contact Countはすべての人を対象にしており、特定の医療従事者、医療サービス、患者に限定されるものではありません。 したがって、Making Every Contact Countはすべての患者が診療の中でサポートを受けられるようなインクルーシブ・アプローチをとっており、健康格差の縮小につながる可能性があります。 (more…)

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