アナベル・ストーン、フィリッパ・ラリー、サリー大学(英国)
新しい年の始まりには何かを変えたくなるものです。真夜中の鐘が鳴るのを聞きながら、新しい習慣を身につけよう、悪い習慣を捨てようと決意します。ランニングシューズのほこりを払い、買い物かごに新鮮な果物や野菜を詰め込み・・・「新しい年、新しい私」と思ったことのない人はいないでしょう。しかし1カ月も経つと、ランニングシューズは2回しか日の目を見ず、新鮮な果物は毛羽立ち始めています。なぜでしょう?どうやら悪い習慣が新年までついてきてしまったようです。
心理学者によると、習慣とはこれまである行動を頻繁にしていた状況(きっかけ)に遭遇したときに、自動的にその行動を実行するプロセスのことです。その「きっかけ」とは、ストレスを感じるとチョコレートを食べたくなるというような感情的なものであったり、パブで友人と一緒になるたびにビールを1パイント飲むというような社会的なものであったり、あのコーヒーショップに入るといつもラテを注文してしまうというような物理的なものであったりします。言うまでもないことですが、悪い習慣をなくそうと思っても、その習慣のきっかけに再び遭遇したときに自動的にその行動をしてしまうのを完全に防ぐのは難しいものです。
習慣の根底にあるメカニズムは、きっかけと行動の心理的関連付けです。その関連付けを消す方法はまだ解明されていませんが、習慣の研究者は、習慣を阻止するのに有効な4つの方法を挙げています:
- 習慣のきっかけを避ける:きっかけに出会わなければ、習慣的な行動をすることはありません。ただし、そのためには何が悪い習慣の引き金となっているのかを把握する必要があります。例えば、パブでのつきあいがアルコールの過剰摂取につながるのであれば、友人との交流場所をパブ以外にすることが効果的です。きっかけを特定する1つの方法は、望ましくない習慣的行動がいつ起きたか、その直前に何があったかを記録しておくことが挙げられます。
- その行動をしにくくする: ある行動がまったくできなくなったり、実行するのに手間がかかるように「摩擦」を加えることで、望ましくない習慣の実行を抑えることが可能です。つまり、きっかけに遭遇した場合でも、その行動を実行するのに意識的な努力が必要な状態にしておくことで、無意識に反応するのではなく、主体的な意思決定が働くようになります。そのためには、その行動を簡単には実行できない状況を作る必要があります。家族がどうしてもチョコレートを家に置きたがる場合、チョコレートを完全に排除することは難しいかもしれません。
- ただノーと言う:自制心を働かせて習慣を断つことも可能です。そのためには、望ましくない習慣のきっかけに遭遇したら、意志の力とやる気を駆使してその行動にあらがう必要があります。ただし、この方法が効果を発揮するのは、習慣のきっかけが明確であり、自身の環境を注意深く観察し、重要な瞬間に自分を制御できるだけの集中力がある場合に限られます。そうでなければ、その大事な瞬間を見逃してしまい、それに気づくのはあとになってからということになりかねません。また、より良い選択を続けるためにはモチベーションも必要ですが、瞬間的な状況ではそれを維持するのが難しいこともあります。
- 代わりの行動を見つける: 最後の選択肢は、望ましくない習慣を新しい習慣に置き換えることです。このプロセスは、まず習慣のきっかけを明確に特定することから始まります。そして、そのきっかけに遭遇した際、新しい行動を一貫して実践し続けます。時間が経つにつれて、きっかけと新しい行動の結びつきは徐々に強まり、古い習慣を上回るようになるはずです。そのためには、自分の行動を注意深く観察し、以前の習慣に戻りそうになったときに思い切って止める必要があります。しかし、何かを実行する方が完全に何もしないよりも簡単であるため、この方法は選択肢3よりも取り組みやすい可能性があります。さらに、この方法を成功させるためには、新しい行動が不要な習慣に匹敵する、あるいはそれ以上に魅力的である必要があります。例えば、チョコレートを食べる習慣を果物に置き換える場合でも、果物を食べることで同等またはそれ以上の満足感が得られなければ、この方法の成功率は低くなるでしょう。
実践のためのヒント
- きっかけを知ろう!悪い習慣を断ち切るための第一歩は、何がその引き金になるのかを知り、理解することです。特定の環境か、特定の時間帯か、それとも特定の感情状態か?これを知ることが、悪い習慣を断ち切る方法を知るカギとなります。
- バッファーを作ろう。予防策を講じることは、望ましくない習慣を抑制する素晴らしい方法です。例えば、ストレスを感じるとチョコレートを食べたくなる場合、そのきっかけを完全に避けることが難しいこともありますが、毎週の買い物でチョコレートを買わないように心がけることで、ストレスを感じたときでも簡単に手に入らなくなり、その行動を防ぐことが可能です。
- 「ノーと言おう!」と考えてみる。一度自分のきっかけに気づけば、それに備えることができます。もしそのきっかけが避けられないとわかっている場合でも、意識的にきっかけを監視し、自分の行動に意識を払い、「ノーと言えばいいんだ!」と心がけることで、望ましくない習慣を抑えることができるでしょう。
- 良い習慣に置き換えよう。望ましくない行動の関連付けを別のものに置き換えることで、望ましくない習慣をポジティブな習慣へ変えることができます。ただしこの方法を成功させるには、いくつかの試みが必要になるかもしれません。例えば、夜にビールを飲みすぎてしまう場合には、次のような対策が考えられます:
- a) きっかけを特定する(例:仕事から帰宅したとき)。
- b) 家に帰るとビールを飲みたくなることを思い出す。
- c) できれば、バッファーを作る。例えば、ビールを家に置かないとか、冷蔵庫に入れないで生ぬるくしておくとか。
- d) 代わりの行動を試す。家に帰ったら、好きなノンアルコール飲料を飲んだり、緊張を和らげるような行動をする(例えば、本を読む、コンピューターゲームをする、友人に電話する、運動をする)。
悪い習慣を断ち切るのは決して簡単ではありません。しかし、それらに注意を払い、こうした方法を活用することで乗り越えることは可能です。