アクセプタンス・コミットメント・セラピー: COVID-19後遺症を抱える人への有望なアプローチとして

エイミー・バラデル レスター大学病院NHSトラスト

COVID-19後遺症とは何か知っていますか?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した人々の中には、急性期後にも何らかのつらい症状に4週間以上も悩まされている人がいます。身体的症状(息苦しさ、疲労など)と精神的症状(不安、認知障害など)の両方を経験することが多いようです。このような症状は「COVID-19後遺症」と呼ばれています。

私の経験では

COVID-19後遺症のクリニックで働いた経験から、患者は新たな症状(および症状の結果)をなかなか受け入れることができず、それが自己管理の妨げになっていることがわかりました。彼らは 「COVID-19後遺症」になる前にできていたことや、診断を受けてから自分の人生がいかに悪い方向に変化したかということばかりを口にします。これは、経験の回避(感情、思考、記憶、身体感覚など、望ましくない内的経験を抑制しようとする試みや願望)の表れであり、症状にばかり注意が向いていて症状の役割(自分の行動を変えるための身体指標)を意識しない傾向があることを意味します。これらの経験を受け入れず、今この瞬間を生きることから遠ざかっていると言えます。

さらに、COVID-19で入院した人の25%以上が、退院後6ヵ月経っても抑うつ症状に苦しんでいると報告されています。うつ病は活動の回避(ある活動をしないことを選択すること)と関連していることから、後遺症に悩む人々は自分が大切にしたい行動ができていないと考えられます。

COVID-19後遺症における心理的柔軟性の役割

心理的柔軟性は、アクセプタンス・コミットメント・セラピー(ACT)が作用するメカニズムです。ACTは、(1)経験への開放を促す、(2)今この瞬間に意識を向ける、(3)価値ある行動に従事する、という3本柱で構成されています。上述したように、COVID-19後遺症に悩む人はこれらの柱のバランスが崩れていると考えられるため、それぞれの柱に取り組んでみることが重要です。ACTを利用することにより、後遺症との関係を変化させ(経験の回避を減少させる)、新しい「日常」を受容し(今この瞬間の気づきを増やす)、自分が大切にしたい行動に向かって変化を起こす(価値ある行動をする)意欲を高めることができます。COVID-19後遺症に対するACTの実践はすでに進展しており、参加者はCOVID-19に関連した苦痛は依然として経験しているものの、ウェルビーイングが改善し精神的苦痛(不安など)にも対処できるようになったと報告しています。

COVID-19後遺症クリニックでのACT:ジョーの場合

私が初めてジョーと出会ったとき、症状が定期的に再発していました。匿名性を保つため、ジョーは私がCOVID-19後遺症クリニックで関わった人々をもとにした架空の人物です。最もつらい症状は息苦しさと倦怠感であり、日常生活が非常に困難な状態でした。ジョーは再発を恐れ、悪化させるようなことを必死に避けようとしていました(経験の回避、今この瞬間の回避)。喜びや生きがいを与えてくれるような活動をする時間はほとんどありませんでした(価値ある行動の回避)。

セッションでは、ACTの各構成要素に一緒に取り組みました:

脱フュージョン(思考にとらわれたり信じ込むのではなく、思考に気づく。そして、1つの思考に固執せず、思考が次々と表れては消えるのに任せる)―思考や感情と実際の経験を区別します(これらは必ずしも同じではありません!)。

今この瞬間に触れるーマインドフルネスを取り入れ、知覚体験(今この瞬間の気づき)に注意を向ける。

価値を探求するー人生で最も大切なことを見つける。

行動に本気で取り組む(コミットメント)―自分の価値に沿った行動目標を設定する。

文脈としての自分―「観察する自分」と仲良くなり、自分の思考にとらわれることなく、離れたところから(つまり、より正確な視点から)眺めてみる。

受容する(アクセプタンス)―コントロールできないことに悩むのはやめて、コントロールできること(つまり自分の行動)に意識を向け直す。

2回目のセッションで、ジョーは自分にとって重要な価値をもとにした2つの行動目標を設定しました。私は動機づけ面接のテクニックを使って、SMARTゴールと、将来の不安を予見したif-thenプランの作成をサポートしました。

4週間後、ジョーは目標を達成したことを誇らしげに報告してくれました。そしてまた、いくつかのマインドフルネス・アクティビティを日々の生活に組み込んでいました(小川に葉っぱを流すエクササイズ、感謝日記、5分ヨガなど)。心理的柔軟性が増し(目先の感情ではなく、価値観や長く大切にしてきた信念に従って決断するようになる)、うつ病の症状が緩和され、セッションがない時でも自己管理できるという自信が高まっていました。

COVID-19後遺症患者を支援する専門家への提言:

  1. 生物心理社会モデルによるアセスメントの重要性を念頭に置く COVID-19後遺症の症状の複雑さと、その結果どのような問題が生じているかを正しく理解することが、患者の立場に立った症状管理の方法を決める鍵となります。積極的に次のような質問をしましょう: 「あなたが一番つらい症状は何ですか」、「息苦しさ/倦怠感/ブレインフォグなどは、あなたの生活にどのような影響を与えていますか」、「息苦しさ/倦怠感/ブレインフォグがあるとき、どのような考えが浮かびますか」。
  2. 心理的柔軟性の測定を検討する CompACTComprehensive assessment of Acceptance and Commitment Therapy processes)は、自記入式の簡便で有効な心理的柔軟性の尺度です。心理的柔軟性のどの柱を高める必要があるかを素早く突き止め、それに応じた管理戦略を立てることができます(例えば、価値ある行動に関与することを避けている場合には、その中核となる価値観が何であるかを探り、SMARTゴールを設定する手助けをします)。
  3. マインドフルネス・エクササイズを提供する/説明するー マインドフルネス・エクササイズはACTの強力なツールで、心理的柔軟性の柱を構築するのに非常に役に立ちます。相手の状況に適したエクササイズを提供しましょう:
  4. 認知的デフュージョンー小川の葉っぱのエクササイズ
  5. 今この瞬間に気づく ―5つのことに気づく
  6. 文脈としての自己 ―ステージショーのエクササイズ
  7. ベストプラクティスの最新情報を入手するー 多くの健康情報と同様に、COVID-19後遺症のエビデンスは常に進化しているため、文献や臨床実践ガイドラインの最新情報を入手するようにしてください。ACTのエビデンスも増えています!
  8. あなたのケアも忘れずにCOVID-19後遺症患者に対応するのは大変なことです。信頼できる人に定期的に相談したり、「報告」を行うようにしてください。これは、特定の患者の治療法を検討できるだけでなく、診療の際にあなたが精神的に健康な状態でいることにも役立ちます。