臓器提供に影響を与える要因を知る

リー・シェパード博士(英国・ノーサンブリア大学)、ローナン・E・オキャロル教授(英国・スターリング大学)、イーモン・ファーガソン教授(英国・ノッティンガム大学) 亡くなった人からの臓器提供によって貴重な命が救われたという美談は枚挙にいとまがありません。実際、1人の臓器提供者(ドナー)は最大9人の人生を変えることができるといわれます。しかし、移植できる臓器は圧倒的に数が足りていません。よって多くの移植待機者が生まれ、中には移植を受ける前に亡くなる人もいます。本記事では臓器提供の意思決定にどのような要因が影響するか考えてみます。

効果的なリスクコミュニケーションは行動変容だけが目的ではありません:個人的なリスク評価について話しましょう

ビクトリア・ウーフ、デヴィッド・フレンチ マンチェスター大学健康心理学センター(英) 従来、医療や健康心理学の分野において、医療従事者は病気の予防を目的として患者に個人的な疾病リスクを伝えてきました。リスクコミュニケーションによって健康行動の変容が促されれば、病気の発症を抑え、治療可能な段階で病気を発見できるはずです。例えば、心血管疾患のリスクを伝えることで、運動習慣や食生活の改善が促され、発症リスクを減らすことができます。しかし、疾病リスクに関する情報提供には考慮したい目的や成果が他にもあります。また、医療従事者と患者や一般市民の目標が必ずしも一致するとは限りません。したがって、リスクコミュニケーションが目指すこととしては、インフォームド・チョイス(情報に基づき患者自らが治療法を選択すること)の促進、適切な感情反応の喚起、行動変容の動機づけなどが含まれます。

研究を実践に移すときに失われる(あるいは見つかる)こと:患者との効果的なコミュニケーション

ツザーナ・ダンクリンコヴァ、パヴェル・ヨゼフ・シャファーリク大学(スロバキア) ほとんどの研究者は研究結果を広めることが研究参加者に対する倫理的責任の1つであるとわかっています (そして研究結果に明確で実用的な意味があることを望んでいます)が、知見を見出してから世間で実施されるまでには長い時間がかかることがあります。科学的知識は日常生活にそのまま応用できるとは限らないからです。もし応用できたとしても、徹頭徹尾システマティックに実施されることはあまりありません。 研究と実践のギャップはなぜ起こるのでしょうか?調査研究、介入方法、および推奨が次々と発表され、医療提供者はその数に圧倒されてしまいます。知見やガイドラインの実践を検討する際には、あなたの現場で本当に役に立つのかどうか考えてください。研究が提示する推奨の前提となっている状況はあなたの置かれた状況に合致していますか。 ガイドライン通りに実施するために必要なものは揃っていますか、それとも不足なリソースやスキルがありますか。患者にはガイドラインを実践するために必要なものがありますか。非常によく設計されたきわめて有望な介入方法であっても、患者と環境が「フィット」しなければ効果はありません。たとえば、スマートフォンやコンピューターを持っていない人やデジタルリテラシーが低い人に e-ヘルス(情報テクノロジーを有効活用したヘルスケアサービス)を勧めても使うのは難しいと言わざるを得ません。 知識の伝達においてもう 1 つの重要なことは、知識を使う人 (患者など) と知識を所有し共有する人 (医療従事者など) との間のコミュニケーションです。どれだけ上手くガイドラインを伝えられたとしても、それが患者にとって意味があり役に立たなければ効果は期待できません。知識を伝達する上でとても重要なのは聴くことです。話を聞いてもらえた人は、自分の知恵を活用して新しい視点で物事を見ることができるようになります。患者やクライアントの話に耳を傾けるほど、彼らの欲求は満たされ、私たちのメッセージは信用され、気に入られ、そして最終的には行動に移されやすくなるのです。このためには、あなたの期待を押し付けず患者の話に積極的に耳を傾け、口を挟まずに十分な時間を与えてください。できるだけオープンクエスチョンを使い、患者のヘルスリテラシーのレベルに合わせ、医学用語は使わないようにしましょう。医学用語を使わなければならない場合は、患者が理解しているかどうかを確認し、もし理解していないようなら用語を丁寧に説明してください。 さらに、あなたが特定の介入を提供するのを妨げる要因は何か、患者が介入を実行するのを妨げる要因は何かについて、自分自身や患者またはクライアントに尋ねる必要があります。変容プログラム、ガイドライン、介入などを成功させるには、事前に障壁となりうるものを検討しておく必要があります。おそらくすべてを洗い出すことはできないかもしれませんが、十分な時間をとって、実行する上で何が問題となりうるか、それはなぜか、どうしたらそれを予防または解決できるかについて患者と一緒に考えてください.。たとえば、患者が食生活を変える決意をした場合、患者が食事を準備するのか、またはレストランや食堂で食事をするのか話してもらってください。家で食事を作る場合、その時間は十分にあるか、時間がないとしたらどうすればよいのか。 レストランや食堂では体に良いメニューが豊富に提供されているのか。潜在的な問題を指摘したり、計画の一環として患者自身に問題を指摘してもらいながら、さまざまなシナリオを一緒に検討するのはとても良いことです。 有効な介入方法を選択し、潜在的な障壁を考慮しながら患者や状況に合わせてプログラムを調整したら、いよいよ実行に移します。介入はできるだけ明確で簡潔にしてください。たとえば、患者に運動の計画を立ててもらう場合は、いつ、どこで、どのように行うかを具体化するように促します。計画がよく練られ焦点が絞られていると行動変容が起こりやすいというエビデンスがあります。 実行すればおしまい、というわけではありません。介入が効果を発揮しているかチェックする必要があります。最後の重要なステップは、今後に活かすため、プログラムの評価とフィードバックを患者にしてもらうことです。患者のフォローを必ず行い、どのくらい実行できているか、何が有効だったかを尋ねるとともに、ガイドラインを遵守したり継続したりする上で何が問題だったか、それはどうしたら解決できるかについて話し合いましょう。 実践に役立つヒント: 1. あなたの現場に適した知見を探しましょう – 適切で有効な情報を見つけ、それが患者や状況に当てはまるか、適しているか評価してください。 […]

患者が症状を管理するのを助ける:病識の重要性

ヤエル・ベンヤミニ、テルアビブ大学(イスラエル) エバンゲロス・C・カラデマス クレタ大学(ギリシャ)   アンナとメアリーは健康な45歳の女性で、ヨーロッパの大都市に住んでいます。彼女たちの周りにはCOVID-19に感染した人が何人もいるし、COVID-19の情報にも日常的に触れています。アンナはCOVID-19が非常に深刻な病気であると信じており、もし感染したら、年齢的には深刻なことにはならないまでも、おそらく厄介な症状に長期間苦しむことになるだろうと心配しています。だから可能な限り在宅で仕事をして、外出の際には必ずマスクをつけ、そして追加の予防接種を受けようと思っています。

2型糖尿病患者の減量と血糖管理をサポートするには

リア・エイブリー, ティーズサイド大学 (イギリス) これまで2型糖尿病は進行性の疾患で,インスリン療法が不可欠だと考えられてきましたが,ライフスタイル・行動変容研究はこの悲観的な予後に異論を唱えています。2型糖尿病の有病率が高まるにつれて,症状を上手に管理する上で食事の役割と,食生活を見直すことの重要性を示すエビデンスが次々と出されています。 食事療法には大きく分けて2つの方法があります。1つは,食べるもの(例えば炭水化物など)に焦点を当て,ゆっくりと着実に減らすことにより最適な代謝と血糖管理を目指すものです。もう1つは食べる量に目を向ける方法で,大幅なカロリー制限をして急激に体重を減らす低カロリー食などがあります。

ケアの実践者への健全な会話スキルの教育

ウェンディ・ローレンス サウサンプトン大学 現代社会における主な死因や病気の原因は私たちが選択するライフスタイルに影響されているため、健康行動を改善させる方法に注目が集まっています。医療、福祉、地域ケアの最前線で働く人たちは、行動変容をサポートするための重要なリソースです。定期的なアポイントメントは行動変容を話題にする機会が毎週のように訪れますが、多くの実践者は行動変容をサポートするために必要な知識やスキルが欠けていると感じています。したがって、喫煙、体重減少、飲酒など、デリケートな話題について自信をもってクライアントや患者と話すことができません。

新型コロナウイルス(COVID-19) パンデミックに対する行動科学の知見

シェーン・ティモンズ(アイルランド経済社会研究所) 世界各国の政府は新型コロナウイルスの蔓延を抑えるべく総力を挙げていますが、それが成功するかは個々人の行動にかかっています。ダブリンにある経済社会研究所の行動研究班は、アイルランド保健省と協力して、COVID-19パンデミック対策に関する情報提供を行っています。この一環として、私たちは100件以上の科学論文をレビューし、一般市民への最適な情報伝達のあり方を検証しました。これは健康心理学の実践者への教訓となるはずです。このレビュー記事では、複数の国で公衆衛生メッセージの基礎とされている3領域―手指衛生、顔への接触、隔離―に関する文献に焦点を当てました。また、より広範な文献をリサーチし、危機的な状況でいかにして有益な行動を動機付けるべきか、効果的に情報を伝達するべきかについても説明します。

あなたのクライアントは防衛的になっていませんか?もしそうなら、自己肯定が役に立つかもしれません

ピーター・ハリス、イアン・ハッデン、英国サセックス大学心理学部自己肯定感研究グループ   向き合いたくないことからずっと逃げ続けたいと思ったことはないですか。体に悪いものを好んで食べたり、健康診断に行かなかったり?まあ、そう思っているのはあなただけではありません。私たちのほとんどは、自分はかなり分別がある有能な人間だと思っています。だから、自分のしていることが本当は分別も有能さもないと知ってしまうのはかなりつらいことです。結果として私たちは聞きたくないメッセージを無視するのとても上手です。 残念ながら、肥満や喫煙、あるいは薬物療法を守らないことなどが健康にいかにリスクになるかというメッセージを無視すると、人生の質や寿命長さの両方に深刻な影響をもたらす可能性があります。では医療従事者として,クライアントが無視したがる健康メッセージを受け止めるためにどのような支援ができるでしょうか?自己肯定というテクニックが役に立つかもしれません。